IKEUCHI ORGANIC 代表。一橋大学商学部を卒業後、松下電器産業(現パナソニック)に入社。1983年、家業である池内タオルに入社し、2代目として代表取締役社長に就任。現在は代表として企画開発部門に従事。
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それは本当にオーガニックなのか。オーガニックコットン流行の裏にある問題
2022.04.01
目次
代表の池内です。
IKEUCHI ORGANICでは、2022年4月1日より価格改定を実施します。
弊社もあらゆる努力で価格改定を最小限に抑えるべく努めましたが、持続可能なサプライチェーンを守っていくために、やむを得ず価格を改定させていただくことになりました。
その背景のひとつが、オーガニックコットンの価格高騰です。
現在、オーガニックコットンは世界中で需要が急増しており、産地によっては入荷の目途が立たない事もあると聞いています。ぼくらは長年に渡って築いてきた契約農家の方々との信頼関係のおかげで、オーガニックコットンを確保できていますが、それでも仕入れ値は高まっている状況です。
ぼくは1999年からオーガニックコットンを扱ってきましたが、このような事態は初めてです。
なぜ、オーガニックコットンの需要がここまで膨れあがっているのか。
ひとつは、世界規模でのサステナビリティへの関心の高まりにあります。いま、多くのアパレル系の企業がサステナビリティへの取り組みを喧伝するなか、環境に配慮した素材を扱いたいとオーガニックコットンを買い求めています。
さらに、中国新疆ウイグル自治区の人権問題が、拍車をかけました。この問題により、新疆綿を避けるようになった企業がオーガニックコットンに目を向けたことにより、需要が一段と高まりました。もともと新疆綿は全世界のコットン市場でかなり大きな割合を占めており、その波紋が広がっているのです。
一方、オーガニックコットンは、需要が高まったからといって、すぐに供給を増やせるものではありません。
そもそも、オーガニックコットンとは何か。
その答えは認証機関などによって変わりますが、IKEUCHI ORGANICでは次の3つを条件としています。
- 3年以上農薬や化学肥料を使わない有機栽培で育てられていること。畑の土に残留する農薬が消滅するまでの3年間は、オーガニックと認めません。
- 遺伝子組換え種子でないこと。より早く、効率的に均質な綿花を大量収穫できるよう人の手によって遺伝子組換えされた種は、生産ラインから厳格に排除されます。
- フェアトレードであること。コットンを生産する農家が、安全かつ衛生的な労働環境下にあり、正当な生活賃金が支給されていること、正当な価格で安定的に購入し続けることが条件です。
ぼくたち人間も自然の一部であるという前提に立ち、全ての存在に対して本来あるべき関係を築くのが、オーガニックという言葉です。オーガニックコットンを育てるには、自然環境を整え、作り手である農家さんの労働環境を整えることも必要です。工場での機械による生産ラインを増やすのとはわけが違います。
ただ、世界的なオーガニックコットンへの需要の高まりを受けて、本当はオーガニックでないオーガニックコットンが出回っているという話をよく耳にするようになりました。
例えば、NewsPicksに掲載されていた「ニセモノが氾濫。オーガニックコットンの『不都合な真実』」という記事。この記事は、今のオーガニックコットンの世界における実情と課題を浮き彫りにしていると思います。
こうした状況が続くと、オーガニックコットンが本来のオーガニックコットンでなくなってしまうのではないか。そうした危機感を感じています。
では、どうしたらオーガニックコットンを守っていけるか。
それは、一人ひとりが「そのオーガニックコットンは、本当にオーガニックなのか?」と、トレーサビリティに目を向けることではないでしょうか。
以前、「“SDGs”を語る前に、大切にしたいこと」というコラムにも書きましたが、IKEUCHI ORGANICでは商品に添付されたQRコードで生産工程が確認できる仕組みを導入しました。また、お客様に向けて、オーガニックコットンの農家さんや産地の様子を紹介するイベントも定期的に開催しています。
現在、多くの企業はオーガニックコットンであることの証明を外部の認証機関に依頼しています。そして、多くの方は認証機関のマークがついているかどうかで、その商品の素材が本当にオーガニックコットンかどうかを判断されていると思います。
ただ「認証機関のマークがついているからいいよね」に止まらず、そのオーガニックコットンがどこの地域のもので、どういう環境で栽培されたものなのか。是非、そうしたところにまで意識を向けてみてください。
企業はお客様の声をものすごく意識しています。ぼくらもお客様から「トレーサビリティを公開してほしい」という声を多くいただいたことで、必要性を深く理解することができました。多くの方がトレーサビリティに関心を寄せることで、企業の対応が変わり、社会に変化が生まれてくるはずです。
また、トレーサビリティを意識しだすと、オーガニックコットンといえども、環境負荷は発生していることがご理解いただけると思います。
オーガニックコットンだからといって簡単に使い捨ててしまっては意味がなく、大切に使っていただいて、はじめてオーガニックコットンはサステナビリティだと言えます。
世界規模でサステナビリティへの関心が高まり、オーガニックコットンの需要が高まっていること自体は、とてもいいことだと思います。ただ、オーガニックコットンの根底にある、全ての自然環境と人々に対して誠実であること。この精神が置き去りになってしまったら、元も子もありません。
もともと、オーガニックコットンは世界のコットン生産量のわずか1%程度です。その理由はシンプルで、オーガニックコットンの生産は非常に手間がかかるから。それをSDGsという言葉ができる前から、環境や人権へ意識の高い人たちが買い支え、オーガニックコットンの市場は育ってきました。
いまは、オーガニックコットンがニッチからスタンダードへ移行している過渡期なのかもしれません。過渡期というのは、様々な問題がついてまわるものです。そして、それらの問題は商品を作る側と買う側の両者によって、解決を目指すものだと思います。
オーガニックコットンを未来に受け継いでいくためにも、ぼくらはぼくらが考えるオーガニックコットンのあり方を、これからも発信していきます。
最後に、冒頭で伝えたように、IKEUCHI ORGANICでは価格改定を実施しますが、『オーガニック120』については、より多くのお客様に手にとっていただけるよう価格を据え置きとさせていただきました。
イケウチの商品の栞にはトレーサビリティがわかるQRコードがついていますので、どのようなプロセスを経て、お客様のお手元まで届いているか考えるきっかけになればと思っています。
<編集協力:井手桂司>
記事を書いた人
池内 計司