IKEUCHI ORGANIC 代表。一橋大学商学部を卒業後、松下電器産業(現パナソニック)に入社。1983年、家業である池内タオルに入社し、2代目として代表取締役社長に就任。現在は代表として企画開発部門に従事。
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『ストーリーを売る』への僕の違和感
2019.07.19
目次
代表の池内です。
これからIKEUCHI ORGANICのnoteで、僕がどんなことを考えているのかを書き綴っていきます。
今回は、『ストーリーを売る』ということへの僕の違和感についてです。
最近、「モノを売るより、ストーリーを売れ」というようなことが、ビジネスやマーケティングの本によく掲載されています。ただ、こういった表現を目にするたびに、なんだかモヤモヤとしたものを感じるのです。
ストーリーを売ることがダメと言いたいわけではないのですが、とにかく、僕らは「違う」と言いたい。
やっぱり、僕たちにとって一番大切なのは、「モノをしっかりつくる」ことです。
そして、つくったモノ自体や、モノづくりに向き合う姿勢、モノを届けていく姿が、結果的に「ストーリー」になっていくのだと思います。
こういった考えは、僕が池内タオルの前に働いていた『Technics(テクニクス)』で教わりました。
当時のTechnicsは、オーディオを製作するにあたり、基本コンセプトが明確でした。ミュージシャンへのリスペクトは入った音をそのまま再生する“原音忠実”です。そのために常に世界一の数値を目指す姿勢がありました。自分たちの音質を数値で置き換えた時に、お客さまに誇れるものに仕上げるというのが、モノづくりにおけるモットーです。
とはいえ、音質の数値データを見て、そのスゴさを理解できるお客さまは、ほとんどいません。多くの人は、「有名なミュージシャンが使用している」とか、「楽器のようなオーデイオ」というような、感情に訴えかける説明の方が響きやすいのが実情です。
ですが、僕のようなオーディオマニアは、やはり論理的な裏付けを求めています。どんなにいい言葉や表現を使って説明したとしても、技術的数値がともなっていなければ、なんだか「言葉遊び」のように感じてしまいます。いかに原音に忠実に再生させるかという事がミュージシャンへの最高のリスペクトです。
「このオーディオマニアたちを、唸らせるモノをつくる」
この一心で、Technicsは進化していきました。そうして、あり得ないような数値を実現して行く姿に、Technicsのストーリーが生まれ、ファンがついてきてくれたのです。
進化しないストーリーは感動を与えないし、モノづくりのテンションも上がりません。
この考え方は、IKEUCHI ORGANICが受け継いでいます。
タオルにもオーディオマニア同様に、タオルマニアの方々がいらっしゃいます。タオルマニアの方々に感動してもらうモノづくりから逃げない。これが、僕たちの信条です。
だから、IKEUCHI ORGANICの商品カタログには、使用されている糸の太さを表す『糸の番手』や、パイル糸の長さを表す『バイル倍率』を必ず明記するようにしています。
正直、糸の番手やバイル倍率のことがわかるお客さんは、ほんの一握りです。ただ、だからといって、そういった方々から目を背けてはいけないのです。
イケウチの歴史を振り返ってみると、マニアの方々との戦いの連続です。今もその戦いは続いています。でも、ある種、そういう厳しい目のおかげで、僕らのモノづくりの技術は高まっていると感じています。
これからも、僕らはマニアの方々が驚くようなモノを届けていくつもりです。
現在、イケウチでは、これまでのタオルの常識を超えるような新商品『オーガニック1120』を開発中です。
これは、僕らの定番商品であるオーガニック120をベースに、次の20年を見据えた設計をしています。先日、ようやく試作品が1枚完成したのですが、恐ろしく素晴らしいものに仕上がっていました。
だけど、工場の職人からは、「試作品の一枚はなんとか作れたけど、多くのお客さんに使ってもらうための生産は、とうてい無理」と言われています。
でも、「一枚は織れたのだから、工夫に工夫を重ねればなんとかなる。実現できないはずはない」と励ましながら、みんなと努力を続けています。
やっぱり、僕らはモノづくりでお客さんに喜んでもらうことを第一に考えていきたい。その結果として生まれたストーリーに共感してもらえたら、言うことはありません。
ストーリーを売るではなく、自然とそこにストーリーが生まれる。
これを、僕らは目指して行きたいと思います。
結論の見えるストーリーには誰も感動しないし、常に模索する姿が美しいストーリーを生むと確信して、これからも励んでいます。
記事を書いた人
池内 計司