IKEUCHI ORGANIC 代表。一橋大学商学部を卒業後、松下電器産業(現パナソニック)に入社。1983年、家業である池内タオルに入社し、2代目として代表取締役社長に就任。現在は代表として企画開発部門に従事。
- TOP
- IKEUCHI ORGANICの読みもの
- “SDGs”を語る前に、大切にしたいこと
“SDGs”を語る前に、大切にしたいこと
2021.11.19
目次
代表の池内です。
近年、「SDGs」「ESG」といった言葉が世の中を賑わせるようになってから、ぼくらの会社にも取材依頼をいただくことが増えました。
SDGsが広く認知されたことで、環境問題や人権などの問題について、社会全体で考えていこうとする意識が高まったことは純粋に喜ばしいと思います。
ただ、世の中の動きを見ていると、SDGsが企業のマーケティング手法として取り込まれ、企業活動の言い訳のように使われてしまっていることに、違和感を感じることも少なくありません。
ぼくなんかは、「オーガニック」や「エシカル」といった言葉が使われている商品を見ると、「何をもって”オーガニック”と語っているのかな?」と疑ってかかってしまいます。
なぜ、そういった違和感を覚えてしまうのか。
それは、企業活動におけるプロセスの一部だけを切り出して、自分たちはサステナブルな活動をしていると語っているからではないでしょうか。
世の中には、「環境負荷の低い商品を扱っているから、その会社は環境にやさしい」という考え方がありますが、ぼくはその考え方に昔から違和感を覚えています。
自社が生産活動をおこなうこと自体が環境負荷になっている。それを理解し、その負荷の低減に取り組まなければ、本当の意味で環境に配慮した商品をつくっていると胸をはって言えないと考えています。
イケウチが2002年から自社の使用電力の100%を風力でまかなっているのも、そのことが理由です。ぼくらは、1999年に企業の環境対策に関する国際規格であるISO14001を取得し、環境への負荷を減らす経営を心がけてきました。
とはいえ、完璧にはまだ程遠い状態です。
以前、「かたちだけの『エコ』に陥らないために」という記事にも書きましたが、昔からのファンの方々に「IKEUCHI ORGANICになってから、”環境に配慮している企業”とは思えなくなった」という指摘をいただくことがありました。
その主な理由は過剰包装で、贈答用にタオルを購入すると、ゴミが大量に出てしまうという問題がありました。ご指摘を受けて、ギフトボックスを軽量化したり、梱包に入れるものを削ったり、オーガニックコットンの風呂敷をラッピング素材に追加したりと、イケウチらしい包装とは何かを大きく見直しました。
振り返ってみると、ぼくらにとって初のオーガニックタオル『ORGANIC 120』を発表し、「環境配慮」を会社として掲げたのが1999年。それから、多くのお客様や環境や人権への意識の高い方々から、様々なご指摘をいただいてきました。
今でも思い出すのが、2000年の『エコプロダクツ展』(現『エコプロ』)です。
当時は、全国からエコマニアが集い議論を交わすような場所で、ぼくらのような中小企業はあまり出展していませんでした。生まれたての『ORGANIC 120』を手に参加しましたが、そこでエコマニアの方々から強烈な洗礼を受けました。
「オーガニックと言っておいて、化学染料で色を染めているのはどうしてなのか?」
「原子力発電で生まれた電力を使っているのは、正しいのか?」
「オーガニックと言いながら、展示用資材に蛍光塗料が入っていたり、パンフレットも再生紙を使っていないのは矛盾ではないか?」
勉強不足だったぼくは、それはもうサンドバックのような状態でした。いただいた声に一つひとつ応えようとすることで、ぼくらの製品も会社も磨かれていきました。
講演や取材などで、「ぼくらはお客さんと一緒にブランドを作ってきた」とよく話すのですが、これはきれいごとのような話ではありません。環境への意識の高いお客様やエコマニアの方々からの厳しい声に叩かれ磨かれ、地道な改善の積み重ねによって、現在の自分たちがつくられていったのです。
いま、お客様と話をしていると、環境や人権への意識が高い方がとても多いです。特に若い世代の方々は、企業活動における環境負荷やフェアトレードの問題をすごく勉強されている方が増えていて、驚くことばかりです。
ブームに乗って環境配慮に取り組んでも、お客様には簡単に見透かされてしまいます。
だからこそ、大切なのは“対話”だと思います。
お客様の声を聞き、お客様と向き合った上でアクションを取る。また、環境への意識が高い方々が集まる場に行き、指摘いただいて、改善に繋げる。こういった活動を地道に続けていくことが重要だと思います。
同時に、お客様と対話するためには、自分たちを”オープン”にしていく必要があります。
製品のデータはもちろん、原材料の調達から生産、消費または廃棄まで追跡可能な状態にすること。それにより、事業プロセスにおいて環境や人権などの側面で社会にかける負荷を低減する活動ができているか。それをしっかりとお客様に伝えていく必要があります。
その一環として、イケウチでは商品に添付されたQRコードで生産工程の確認ができる仕組みを導入しました。
(▲)商品に添付されたQRコードを読み込むか、上記のトレーサビリティ公開サイトでロットナンバーを入力することで、製品のトレーサビリティが表示されます。
会社の幹となる部分について隠さない。
これが重要だとぼくは思います。枝葉のような部分で、いくらSDGsに貢献しているとうたっていても、その会社の幹となる事業で社会にかける負荷が変わらないのであれば本末転倒です。この幹となる部分こそオープンにして、意見をもらうべきでしょう。
いま、企業の社会的責任への関心や期待が高まるなかで、どうやって社会にかける負荷を低減し、どうやって社会課題の解決に資する製品やサービスを提供するかを模索している企業は増えていると思います。
ですが、「当社は環境に優しい企業です」と胸をはって言うのは、そんなに簡単なことではありません。その企業が環境や人権に配慮した活動ができているかを決めるのは、お客様です。
自分たちをオープンにし、お客様と対話を重ね、地道に改善を続ける。
SDGsうんぬんを語る前に、このポリシーを貫くことを、ぼくらはこれからも大切にしていきたいと思います。
<編集協力:井手桂司>
記事を書いた人
池内 計司